紀伊國屋書店の出版流通に対する見解

紀伊國屋書店の出版流通に対する見解

2010年新卒採用ページの会社綱要から。

出版流通の補足

まず、日本の和書の出版流通から説明します。メーカーにあたる出版社が新刊を出版すると、それが問屋にあたる取次へと流れ、小売である書店でお客様に販売する形をとっています。

ですから一般的な流通形態と変わらないのですが、特徴的なのは「取次」です。そこに掲示している株式会社トーハン,日本出版販売株式会社という2社がそのシェアの6割弱を占めていることです。

出版社が約4300社、書店は1万6千軒と言われており、真ん中の取次が前記のトーハン日販を含めて十数社しかないので、「瓢箪型流通」といわれております。

この日本の出版流通を支えてきたのが再販制と委託販売制です。

前者は要するに定価販売制であり、日本全国どこの書店でも同じ本は同じ価格で売ることが義務付けられているという制度です。

後者は、原則として新刊については、書店は売れなかったものを返品できると言う制度です。

←は、この返品の流れを示しています。

いずれの制度についても問題があり、別途説明致します。

海外の洋書の出版流通も、基本的には、日本のそれと同様ですが、まず、日本のように巨大な取次は存在しません。Baker&Taylorなどの大手取次はありますが、出版社から書店への直取引も多く、何でも取次を通す日本と異なります。

尚、洋書については、原則として買切で、返品は出来ません。

現在、日本では本が売れなくなってきています。2兆円産業であり、もともと小規模な業界なのですが、最盛期の市場の約20%減少しています。

にもかかわらず、新刊は年々増加しています。売上が減っているのに新しい本がどんどん発行されるというのは極めて不可解な現象です。

これは先の委託販売制に関連しています。新刊は売れなければ返せる、というこの制度が取次のパターン配本につながり、出版社はこの配本をあてに、どんどん新しい本を作り、取次ぎにおさめその金で経営してゆくのです。

取次のパターン配本というのは、書店の売上実績に応じて書店をランク付けしAランクの書店には500冊、Bランクの書店には100冊といったパターンを決め書店に配本してしまうシステムです。この結果、書店には売れない本が山ほど送られることになります。売れないから書店はこれを返品するしかなく、膨大な返品が発生します。この返品は無駄な流通コストを発生させます。

即ち、出版社から取次へ取次から書店へという流通のコストがもう一度逆方向でかかることになるからです。また、最後は断裁処分にするしかないことを考えれば、紙資源の無駄であり、環境破壊にもつながるのです。

再販制にも批判があります。公正取引委員会は、再販制が消費者利益に反するものと捉えています。定価販売制で価格競争が無いというのは、消費者に選択の余地を与えないものであり不当である、ということです。例えば、風邪薬であれば高いが急ぐから近くの薬局で買うか、常備薬として置いておきたいのでまとめてドラッグストアで安く買うかの選択ができるのに、本はどこで買っても同じ値段というのはおかしい、という考え方です。

これに対して、出版業界側では、次のように反論しています。

もし、本が定価販売ではなく、価格競争の世界に委ねられたら、例えば、東京と沖縄とでは後者のほうが同じ本でも高くなってしまう(輸送コストが反映する)、そうなると本が象徴する文化に地域格差ができてしまうから定価販売の方が妥当である、と反論しています。

しかし、全ての出版物について定価販売で守ることが必要でしょうか。

専門書・学術書については、確かに守るべきでしょう。しかし、一過性のタレント本などは大量に安く仕入れて安く販売することも充分に考えられるのではないでしょうか。こうした考え方が部分再販です。

また、ある時期までは定価で販売しその時期を過ぎたら値下げして販売する、という時限再販の考え方もあります。

これら再販についての考え方を進めてゆくと、委託販売制も崩れる余地が出てきます。大量に買い切るからより安い価格で仕入れる等仕入条件について交渉の余地が生まれるからです。

当面は、委託販売・再販は維持されると思われますが、日本の出版流通は大きな曲がり角に来ていると言えるのではないでしょうか。http://www.kinokuniya.co.jp/06f/d04/kaishakoyo.pdf

応募者に対する業界の説明だけの筈が、微妙に踏み込んでいる気がする。

最大手だけに態度を大っぴらに打ち出しにくい立場なのだろうが、これは公式な文章だよな。